
月は輝く。
鈴を持った侍女たち。
月に導かれるはユダヤの王女サロメ。
銀の鏡に映る白い薔薇の影。
その美しさと気高さの前では誰もがひれ伏し、
危うい神秘の香りに包まれる。
お月様を眺めるのはなんて楽しいこと!
お月様は冷たくて清らか、きっと生娘なのよ
一度も男に肌を許したことのない
汚れを知らない生娘なんだわ!
誰、今の声は?
サロメは男の声を聞いた、宮殿の古井戸から響く男の声を。
その身体に神の手が触れ、神の言葉を話すという者。
神の使い、預言者ヨカナーン。
なんて不思議な声だろう
なんて不思議な言葉だろう
あたしは今の声の主と話がしてみたくなった
ヨカナーン、王様もが恐れておいでの預言者、ヨカナーン
あたしはあの男と逢って話がしたい
あんな暗い古井戸で生きながらえている男
不思議な声を持つ男
あたしはあの男と逢って話がしたい
誰かあの男をここに連れてきておくれ!
おまえならきっとあの男をここに連れてきてくれるだろう?
なんて恐ろしい男だろう!
なんて恐ろしく黒い目だこと
底知れぬ深い洞窟のような
ほっそりとした象牙のような身体に
黒々と開いた二つの穴
あたしはユダヤの王女
ヘロディアの娘サロメだよ
もっと話しておくれ、ヨカナーン
お前の声はあたしを酔わせる
もっと話しておくれ、そして教えておくれ
あたしはどうすればいいのかを
砂漠?
砂漠に何があるというの?
砂漠に神がいるとでもいうのかい?
その神はお前のように美しいのかい?
ヨカナーン、あたしはお前の肌に恋してしまった
その抜けるような肌の白さに
お前の肌に触らせておくれ
お前の肌など欲しくはない
お前の肌は忌まわしい
まむしの這う白壁のよう
あたしが恋しているのはお前の髪
つややかに流れるお前の黒い髪なんだよ
お前の髪に触らせておくれ
お前の髪など欲しくはない
お前の髪はおぞましい
泥や塵で塗り固められている
あたしが恋して止まないのはお前の唇
象牙のナイフで二つに切ったザクロのよう
この世のどこにもそんな赤さのものはない
お前の唇に口づけさせておくれ
お前に口づけするよ、お前に口づけするよ
"其の2へ"